天才科学者

不老不死の研究をしていた男の人がいて、この人はたまたま天才だったので大体その研究に成功した。おめでとう人類!不老不死だ。しかし彼自身はすでにすっかり年老い、彼は彼の天才を費やしてしまってた。彼はこの発見の成果を発表する直前、大きな会場の待合室で、突然思う。年老いた自分は不老不死になってこの醜い体のままこの世界にありつづけるのだろうか。実験で、薬物による右手の甲にできた醜いしみをにらみつける。若者達は美しいまま自由だった。彼らはなにも考えない。この醜い世界を醜くしているのは美しい彼らだった。むしろそれを彼は羨ましいと思った。彼らは彼のおかげで永遠に美しいままになるだろうし、彼自身は彼のおかげで永遠に醜いことを保障された。酷く強い嫉妬の思いが彼を襲った。長い間の孤独な苦痛の作業の成果はただなにも考えない人間と、彼の手にのこる染み、彼の顔に刻まれた皺のためにあった。こんなことは理不尽だね。と彼は思った。彼はこの世界から不老不死と一緒に消え去ってしまおうかと思った。でもできない。だってそれならば一体彼とはなんのためにあったのだろうか?彼の人生とは一体なんのためにあったんだろうか?彼は声を上げずに泣いた。

ハンカチを持っていたことが、彼の不幸だ。彼はハンカチで目の辺りの涙をきれいにふきとり、待合室に彼を呼びに人がはいってくるとあわててあくびをして、寝不足を訴えてみせた。目がはれているのを隠すためだ。目がはれていますね。眠いですか。うん。ちょっと緊張して眠れなかったよ。もう、若くないから寝ないとだめだね。誰も疑わなかった。最後の嘘だ。4日後に彼は死ぬので。人が大勢待合室に入り乱れて、彼を見守った。彼はたちあがり誰かが彼のために開けて押さえているドアから出ていった。彼はそのドアが閉じるが閉じかけるのをふと後ろに感じて思わず振り返った。まさに閉じる瞬間彼は無意識的に思った。せめてそれが大きな音をたてて派手にばたんとしまってくれたらなにか彼は救われたような気持ちになれたかもしれない、と。しかしドアはゆっくりとエレガントにしまった。