数学が勝った

数学が勝った。

「数学が勝った!」という知らせが僕の元に届けられた時僕は最近発売された「実験的な歯ブラシ」のマニュアルをみていた。40ページもの長さに渡って難しい専門用語で解説してあった。そうか。数学が、勝ったか。と僕は顔を上げて言った。そして昔お世話になった国語教師の顔を思い出して、追悼に思いを馳せた。追悼の文句は、こんな感じ。「1010001010010100101110101001010111010010110101011101010101100101・・・」

7日間の世界のスケッチのためのランダムノート

多分ばかな気取った人(日本の大学生的)な人の発言として
完全な羽をもつ鳥も空気がなくては完全に飛べない



「真実は真ん中よりすこし左側にてヨツウチ」。じゃあ、意味は?僕は無意味と意味の調節を実験しました。音楽でね。嫌な話だ。コンドは意味がモルモットで登場だ。「じゃあモルモットの意味は?」とプールの中から小山田くんが僕に聞いた。アイツの足を切りとってやりたいとそのときは思ったものだ。



だから人は音楽みたいなくだらないものにたよる。音楽はできの悪い耳栓。音楽はテイの良い耳栓だ。 気持ち大目のお湯を沸騰させてお塩を適量いれます。これをすると沸点をたかくすることができるんですね。そして無意味、無意味、と意味がでてくるまで繰り返し唱えます・・・。



空気の全てをうたに換えたら僕らの勝ちだ



1.8ギガのペンティアム4は早過ぎるから後悔を先取りしてムゲンループに陥る。処理速度は半年で倍になるぜと学者がいい、ムゲンループは半年で倍に早く周るようになる。深呼吸した後で、同じ学者が、世界中の空気の量は変わっていないよ。といった。

人類が全ての空気を二酸化炭素に変えてしまい、すべての生物が死んでしまうまえに、すべての空気を歌に代えたら、僕らの、勝ちだ。



僕らはそういうニヒリズムにみちた気の利いた言い訳を1年間に108は思いつくことができる。そしてこの執行猶予を楽しむ。1年間に365回のマスターベーションをする。ティッシュ革命以後の世界だから問題、ない。

こころのあたりのある空洞。こころあたりあるでしょ。の話し

ボク:僕は成長しない世界について考えてた。そこは成長しない世界。つまり成長率がゼロであるという世界。そこには夢というものがないから、現実は味気ない。感情というものがないから、喜びというものもない。

デク:デクは成長しない世界に住んでいる。ここは成長しない世界。つまり成長率は無限大。ここには現実というものがないから、いやなことなんてなーんにもない。感情というものがないから、鬱なんてとんでもない。

僕らは君らみたいに心に痛み止めをうつ必要も無い

ボク:そこではあたり触らないものだけが与えられるものだから、宝物といえばガラクタ、くだらないもの。デク:けどそれが君らにタラナイモノ。

僕らには意思も、歌もないけど、でもでも、君たちの世界にだって、四万個の心臓があって、8万の手足があるとは限らないでしょ。計算はそんなに上手くはいかないでしょ。そして君だって背中に羽が無いのが不満なんでしょ?あんなおもちゃみたいなのにのって空飛んでるなんて、そりゃとんでもないよ。はっはっは。

人形と人間の違いは殴ってみて死んだらそれが人間だはためからみると君たちの世界のルールなんてそんなもんだよ。成長する世界。借金のゼロのカズだけが成長する世界。そんなもんでしょ?その無数にならべたゼロのヒトツをとってきてどれだけながめてもカンペキな円にならない。どこかの世界のようにそれは楕円。

いいかげん気付きなよ。深呼吸するために空気はあるのさため息も空気に混じれば誰のものかわかるものか

いいかげん気付きなよ。デクもボクもいっしょさ。心のあたりにある空洞。心当たりあるでしょ?



僕らの体はマンネリでできている。創造性とよばれているものを太陽にすかしてジット除くことで始めてなにかをつくることができるようになる。



しかしそれに飽きた人もいる。

君達の世界、つまり人が人をころしてなにも面白いことがほかにないから音楽なんてものまでひっぱりだしてもみないとやっていられないようなそのヒドイ世界のことだよ。


人はわざわざ隠れてお尻をふくんだ。セックスをし、人を殺す。


詩を書いては人をさげすみ芸術家は芸術をニクみ音楽家は音楽を憎み男は女を憎み女は男を憎む子供は大人を憎み母は子をにくむ眠るものは自分をくるむ毛布を憎む。

ダッチワイフを舞台の上において、はなしはじめる。途中、空洞、の辺りで、ドンキーのかぶりものをかぶった人が、とんできて、プロレスのアクションをする(あの馬鹿げた、二人とも倒れるラリアットとか)で、最後に、胸を破壊する。すると空洞ができる。これを、得意げにとんできた人が、手で示す。どうですかー。みたいに。

真空雑誌vol1 特集「2つ目の真空」

今日の新聞記事(3件)~
 浜辺で仲間達とチェーンソーですいかわりをして楽しく遊んでいた少年が謝って自分の頭を割ってしまいしょうがないので仲間たちは割れた頭に塩を少々ふってを食べようとしたのだが少年は死ぬ直前には頭のなかが空っぽだったらしく、彼らはおなかをすかせたまま警察にとどけでたそうだ。(真空雑誌調べ)~
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 真空に関する研究の権威であるミスターヴォイドことアルツハイマーデスマイヤー教授86才が日本に滞在中、巨人の原選手の空振りをみて「これこそほんとうの真空だ」と言ったそうだ。(真空雑誌調べ)~
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 ニューヨークタイムズ誌のしらべによると、今年度に発生している殺人事件の動機のうち12%が空腹によるものであることが明らかになった。これは2位以下と大きな差をつけてのダントツ1位である。この件に関して真空に関する研究の権威であるミスターヴォイドことアルツハイマーデスマイヤー教授86才は記者会見をひらき「真空というものはすべての事象に関してダントツ1位。やったね。」と述べていた~
そうである。(真空雑誌調べ)~
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特集:2つ目の真空~
 今回真空雑誌では日本のある科学者により提唱され、サイエンスウェーの中にも度々登場し各方面で話題をよんでいる「二つ目の真空」の特集を企画した。~
 ご存知のように最初の真空が成文化されたのはBrahmaguptaというインドの天文学者でよってでありそれはおよそ西暦の600年頃だとされているが、彼自身が言うように彼のいった「ゼロ」というものはヒンズーのシンボル的概念であるvoidの観念、彼らの言葉でいうshunyaを言葉にしたものである。この言葉を始めて聞いたある英国紳士はその夜自殺をしたという。~
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 さて、昨今関係者の間で口にのぼる「二つ目の真空」とはなんであろうか。「真空」という日本語はヴォイド、あるいはshunyaにもっとも近い記号であろう。しかしこの「二つ目の真空」という言葉を口にした最初の人間が誰であるのかがはっきりとわかっていないことがまず興味深い点である。これは誰か特定の人間がこの「二つ目の真空」を「00年」のある日見つけてしまった、というよりはこの「2000年という状況」において人々の無意識に同時的に人々の間の言葉以下のコミュニケーションが創り出したものなのかもしれない。つまり共作、コラボレートされたものであると思われる。~
 この二つ目の真空という概念、「0から1へいく途中にある真空」というものはなんなのであろうか。0から1へ向かう途中にある真空とは、隙間である。とアルツハイマーデスマイヤー教授は彼の著書で説明している。それは「行間をよむ」ということではなくて、実際にみえる、もし文字がクロで表示されているのなら「白」の部分である。これを虫眼鏡でのぞいてみる。何もみえはしない。これが二つ目の真空の一つの例である。そしてすべてのものの中にこの二つ目の真空は存在するといわれている。そして彼が提示した例のなかに二つ目の真空に関するもう一つの解が見つけられる。それは「見ても、見えない」のだということだ。つまり二つの目の価値のヴォイドのことである。~
最後に僕の意見をつけたしたい。「二つ目の真空」の「目」とはあなたの目のことである。~
つまり二つ目の真空とはあなたのことである。~
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                          (文責 deqk)~

真空雑誌創刊一号 特集 完全なる真空

のたび真空雑誌では、アメリカ大統領であるクリントンさんと、アホである坂田さんとの対談の場を設けることに成功した。しかもこれは当社が開発した「完全なる真空」というボックスの中で、人間の精神状態をまるでソノ肉体が地球、そして重力と言う僕らが根本的に信頼しきっている概念そのものから切り離された状態で、つまりその「完全なる無重力状態で」行うことに成功した。極限的な自由の中にあり、且つ本能的な安心を排除されたという人類というもののジレンマを最大限に味わいながらのお二人言葉は、その「アメリカ大統領とアホというマッチング」としてみても必読に値する。では前置きは少なめにして、お二人の対談をお楽しみいただきたい。~
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 どうですか?完全なる真空に入られた感触は。~
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アホ「          」~
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大統領「       ~
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そうですね。利用方法が明確でなく、技術が先行してしまっている社会に関する危惧だということでしょうか。ありがとうございます。~
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これからの開発の参考にさせていただきます。~
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アホの坂田さんも。~
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アホ 「   」~
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では、フリートークの方をよろしくお願いいたします。~
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大統領 「~
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大統領「       ~
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                                                                                   」~
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大統領「       ~
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                                                                                   」~
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アホ 「            」~
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大統領  「                           ~
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                              」~
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アホ 「                 」~
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大統領  「                                 ~
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アホ 「         」~
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大統領「                  ~
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アホ 「                         ~
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大統領「   ~
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アホ 「               」~
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大統領「               ~
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アホ「                           」~
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                             (文責 deqk)~
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ギターを弾く100の方法

ギターにはヒャクトオリの鳴らし方がある。コワス。弦をきる。弦をカツグ。カツオくん今日のユウご飯はなんだろうね。マスオさん。てめぇだよ。これがその100通りのなかで主要なものである。ほかには、血祭り、踊り食い、踊らずぐい。グラフィカルユーザインターフェース、一人エッチ、ひとり真剣白刃取り。一人で真剣に白髪とり。真剣に冗談を言う鳥。ギターでヒャクトオリ。である。~

7日間の世界のスケッチ

「物語の始め」

この物語には真空男、太陽、美しい真空の形、熱にうかされた詩人、耳が3ッつあるおしゃべり、口のない、右脳ハイジャッカー、漢字変換機能、システムノットワーキング、ボク、デク、イズム・コピーマシーン、真空を燃料にする宇宙船、月曜一現のハムスター達、唯一名前をもつ男ガガーリンが登場して、そしてその全てが言葉を使ってしゃべる。あるものはとても良くしゃべる。そしてこの世界には固有名詞はほぼ存在しない。美しい世界には固有名詞は存在しないものである。



 
 
 
 
 
 

1章
 真空男がいた。彼は空気をすって真空をはいた。安物の真空のレプリカに満ちた世界で彼はいわゆるミュータントで真空の形が見えていたが、彼はいちどもその形を説明することに成功したことがなかった。お腹が減っている時にははっきりと見えるのだよ、と彼は恋人に冗談をいった。バカいってないで沢山食べろと彼の恋人はいった。

 話はある土曜日から始まる。真空男は恋人に会いに行くまでの時間を自分の家にこもってなにもせずに過した。少しはなにかをしているけれども、彼は日記には、今日は何にもしていないと書くだろう。あとで見返して、ああ何もしていなかったのかと、思うだろう。こういうのを日常だと呼んでしまうと僕らの退屈は手遅れなものだといえる。彼はこの面白みのない生活は一体なんのせいなのだろうと少し考えた。仕事のせいだろうか。単純作業をこなしつづけるだけの仕事。彼らには成長する必要が与えられていなかった。彼らに与えれれいる仕事のほとんどは、機械でもできる単純な作業なのにも関わらずわざわざ彼らにあてがわれたもので、こうしたことはこの時代の社会的な慣習になっていた。第三次大戦後の世界。歴史的に価値観が徹底的に変革したこの大戦の後の抜け殻の世界。核兵器はその使用よりもその燃えかすにこそ意味があった。放射能の沈殿物。でも彼は子供のころの歴史の時間、そうした難しいことよりも、立派な顔にひげを書き込むほうが好きだった。ひとみの部分をしろで塗りつぶして、噴出しをつけてそのなかにこう書きこんだ。わしの目の黒いうちは、核の使用などさせん。と。しかし人はまるで殺虫剤でも使うようにそれをつかった。


 今も、東の方で戦争があった。第517次世界大戦だ。人類はこりもせずに戦争を続けていた。平常化した戦争はやめるほうがずっと大変みたいだった。幸いにも真空男のいる辺りは争いの直接的な影響の外にあったが、全世界的に空気が絶望のすすでよごれていて、希望の空気清浄機が全ての家庭のテレビの上におかれている。気候の変化で男の3人に1人はホルモンのバランスがくずれて真空を粉末にしたクスリが必要になった。彼等はそれをスプーンに乗せ、熱して消毒し、注射器をつかって静脈にうったり紙でまいて燃やしその煙をすったりした。…オバードーズがやってくると、彼らはとうとう真空そのものを吸いこみ始めようとして、いよいよ声もでないほど真空が肺の中にたまってしまうと、パクパクとやはり空気が恋しいとでもいうのだろうか、口を不器用に動かして、そして死んでいった。



真空男はそのうちなにもしないでいるのに居心地が悪くなって、エレクトリックでできたウソを垂れ流しつづける装置を窓際においてでヒナタボッコを始めた。恋人に会いにいくまでの時間はまだ少しあった。あとあくびが20回できるだけの時間はありそうだった。なんならあごが戻らなくなるまでやったっていい。でもやらない。冗談は戦争を乗り越えられずに亡命中の山脈の中で死んだ。彼の遺書は歴史についてこういっていた。「あの星が、見える貝。その隙間が見えるかい?僕はあんなにおなかが好いているよ。」冗談は笑いに絶えるものではなかった。冬の乾いた空気の雰囲気の中を太陽の光が貫いてきた。雲の色はやはり白かった。真空男は詩が好きだった。ただそれは彼を感動させることは一度もなかった。彼は思い立ったときに装置の電源をつけて詩を聞いた。この装置からは詩が流れるのだ。幼い頃に祖母から譲り受けたこの装置にはごく単純な操作をするためのボタンしかついていなかったが真空男はその手触りやイメージを非常に好んでいて、ほとんどいつも無意識的に身に付けていた。装置からはこういう詩がきこえてきた。


「ほら僕にもできたよ。なにも振るわせることなく、ただくちびるで唄う歌。明日からは笑いながら逃げ惑う人たちの仲間に入るつもりさ。僕もウソっぱちだってことを証明するために唄って見せる歌さ。皮肉をこめてそして皮肉をわらいつつ、可憐にさく造花を題材にしたロマンシズムの温水プール。希望の催涙ガスでうそっぱちの涙を流す。ハンカチを目にあててさめざめとやるのさ。ポケットにはそんなような感じの、っていうか真実(コピーライトつき)を語りあうための携帯電話のふくらみがあり、タクラミはすべて冗談でおわり、いつのまにかまた誕生日がやってきていて、それを皮肉っぽく笑うのだが最近では笑うとしわがよるようになったことに気付き、さめざめとまた泣く。なくフリが下手糞な人間から地獄の特等席があてがわれて行く。天国の777番地が地獄。明日にはまだきっとしなないだろうが明後日にはきっと死ぬだろう。フェーダーをさげきってしまえば終わるかぐわしきまがい物の整列を両耳に感じながら、うそからでたまことのうそをそれにあわせて並べてゆく。今すぐヘッドフォンをとって右手にロープを握り、左手に聖書からお気に入りの1ページを破りそれを握り込み、冗談です、冗談ですよ、といいながらなすべきことをなす。利き腕は人をころしやすいほうのうで、逆のうでは人を愛しにくいほうのうでだ。
全てての口元にたゆたうコレから世界を舞うだろうパルスに叫びたい。君たちは真空にはなれないのだ、と。意味がないのだ、と。三六度四分の魂からはそれ以上の熱を帯びたパルスを発することはできないのだ、と。そして世界は熱をうばっていくだけなのだ、と。世界はエネルギーの奪い合いで血も涙もとからなかったのだとさとすようにただ震えている。世界はなんの様相も呈さないまま僕らのせいで悲劇的様相を呈している。そしてただ唯一、あの水辺には無垢の、なにもしらない、またなににもしられていない場所があり、そこにむかってあゆみをか

さねるだけだ。もちろん。そこにたどりついたときにそこはもうそこではなくなってしまうのだ。僕らがそれをみつけたらそこは、僕らよく見知った、どこか地獄にも似たこの世界の一角にとりこまれてしまうのだ。あなたはそれにあこがれるならば、またあこがれるがそれゆえに、そこからあらん限り後ろを省みず、逃げゆくべきなのだ。北極星を右手に見ながら。ふん。ほんとはそんなもの、水辺など、ありはしないのだけれどね。作り話がお上手です。いや、あるよ。お手洗い。」


 


 


 


 


 


真空男はこの詩を聞きながらも太陽についてぼんやりと考えていた。サービス心の旺盛なほかに芸も無くくしゃみすらすることもなくその場でもえている太陽と目があうと、太陽は余りあまり乗り気じゃない様子でこういったように思えた。「僕が死んでも僕の財産はきちんと宇宙なりの相続のための決め事にしたがってちゃんとなされるから心配することはないよ。君には特別に純粋な真空をわけるようにいってある。太陽系のうちのほとんどは銀河系のさほど遠くない場所にひきとってもらえるようにしてある。誰も彼もしんでしまったからね。僕ももう充分生きたよ。それにこう一人で偉そうにしてると、本当にバカみたいな気持ちになるんだ。僕の何が特別なんだろ?って。色々な人が僕をみて、おおとか、ああとかいってくれたりする。特別扱いさ。でも僕は後ろめたいんだ。僕はなにかをしているわけじゃなくてただここでバカみたいにもえてるだけじゃない?いや、でも特別じゃないものを'やんでるってわけでもないんだけどね。えっと・・・、なんか、どうでもよくなってきちゃったよ。僕は燃えていることでいっぱいいっぱいで、もうどうでもよくなってきてしまうんだな。悲しいよ。もちろん昼間・・・といっても僕にとってはいつだって昼なんだけど、つまりその、誰かを照らしていると、なにか少しやる気になってきたりもするんだよ。だから、落ちていってもいいとね、思うの。うん。そうだね。でもそれでもなにか。ただ僕はここにいるだけじゃないか、っておもうんだね。まぁいいや。そろそろまぁいいやっていう気持ちになってきちゃったし、また今度ね。こんど生まれ変わる時には真空がいいな。あれって、楽しいのかな?」そうかもしれないね。という意味で真空男がうなづくと、太陽は満足したように目を伏せた。


 
 真空男は次の一連のパルスが装置から出てくるのを耳にしつつも空中に浮かんだ、おせっかいなどと呼ばれている時計に目をやり、待ち合わせの時刻が近いことを確認して装置の電源を切った。全世界的にエネルギーの節約が叫ばれていた。核エネルギーはニ回目の世界大戦の後の世界において徐々に世界における主要なエネルギー源として重用されるようになったが、第三次世界大戦時の核の乱用による徹底的で絶望的な人工の激減とそれにともなう無惨な世界のランドスケープは、それは実はとてもはかなげで美しいものであり、真空的であり、無音的でもあったものの、結果的に人類のエネルギー使用削減の方針採択への決定的なきっかけとなった。こんなエピソードがある。ある男が技術確信というものに対するする人類の新しい姿勢をなにものかが提示することを歴史が求めていることを悟り、自らの手を食いちぎるというパフォーマンスをした。彼は手を例のものに口付けされ、手は腐り始めていた。そして腐食が全身に行き渡りしまいには魂までも腐らせて死んでいくのだろうということを彼自身もよくしっていたし、この時代、この時期にはその場にいた全ての人がそうしたことを毎晩眠りにつくたび、電気を消すそのたびに思い出すほど良く知るようになっていた。不自由なれど罪悪を行わない存在になるつもりです、とすべての彼を見守る人々に語りかけながら彼は一つ一つの指からはじめて噛み付ける部位の腕の肉をすべて食いちぎった。出血はひどく、そしてその血は黒く濁っていた。彼の歯はその特別な食事のせいでほとんど抜け落ちていきそれはとても滑稽だったはずだが、それを見ていた者たちがそれは実はおかしいことなのかもしれないと思うのには時間がかかった。四日後に彼は死んだ。ほかの誰ともおなじように音もたてずに死んだ。すっと死んでいった。彼が死んでも例のものは彼の体を蝕むのをやめようとはしなかった。だから彼を埋葬することはできなかった。しかしこの特別にみえる死もほかの死とおなじように、どんなはかりではかろうとも0グラムの絶対的な定位置から針

を引き剥がすとはできなかった。誰が死んでもなにも軽くならない世界。地球からなにかが失われることがないことも証明済みだった。何人かがその場に放置された彼の死体に勇敢にも花を捧げたが、その花は1時間ともたずに枯れた。


 


 


 
3真空男の話のつづき


 真空男の恋人ついて。女は女だとのことだけれどもそれも昔話だ。昔、女の人はその首をどれだけ隠すか、それだけで世界を逆転させることができたらしいけれど、今はぜんぜん無理だ。女の人に魅力がなくなったわけではない。僕らにその気がなくなっただけだ。ありますか?

 この女は、美しい真空の形をしていた。だから真空男は何かを混同しているのかもしれないといつも疑っていた。それが彼の悩みだった。僕は美しい何を好きになっているのだろう。彼女は美しい真空の形をしていた。僕は彼女とセックス

をするのも好きだとは思うし、それは真空ではないだろう。なんだろう?でもなぜ、人間は人間をだけ好きになるんだろう。僕はなぜ罪悪感を感じるのだろう?


 


 


 彼らは灯りの少し落ちた場所で外食をとっていた。会話はこんな風だった。

「こないだ、こんなお話を本で読んだの。美しい国があって、そして美しい墓があった。でもとても醜い汚い墓もあったの。そして醜い墓からは幽霊がでるの。その幽霊は美しい国にすむひとの寝床にたって、恨み辛みを夜な夜なぼそぼそと夢にその呪いの言葉を吹きこむの。そして夢見る人たちは、辛い夢をみるの。そして彼等の苦しみを理解する人も中には現れるのね。それで、彼らはその日1日を真摯にすごそうとする。苦しみの中に過すの。遠くの場所で苦しんで死んでゆく子供のことを思い出したり。そして時には涙を流したりもするのね。でもね、もしも次の晩に幽霊たちがあらわれないと、また彼らは次の日、ぐっすりと眠りながら全く別の夢を見るの。めくるめく恋の夢。こうして恋人とあったりしている夢とか、あまりにも幸せな現実の悩みとか。悲しいお話でしょう?」

「そうかな?そうでもないと、思う。」
「何について話したのか、わかった?」
「うん。多分。」
「そう。」
「ちょっと暗すぎるよね。この店は。」
「そうかもね。ねぇ、明るいのと暗いののどちらが好き?」
「明るい場所にいる君と、暗い場所にいる君とならばどちらかというと暗いほうが好き。」
「どちらかというと明るい場所にいる私がスキデハナイノネ?」
「どちらかというと暗い場所にいる君がスキナンダヨ。」
「じゃああそこにいる可愛らしいウェイターの女の子が明るい場所にいるのと暗い場所にいるのとどちらが好き?」
「あの女の子が明るい所にいるのをみたことがないからわからないけど、暗いところでみるとすこし陰気にみえるんじゃあないかな。ああいう子は。」
「明るい場所にいるあの子はスキナノネ?」



スキナノネ?キライナノネ?キライナノネ?スキナノ?


ドッチデモナイノネ?


あら、そうなの。



あいうえおと読み上げるように。意味のないこと。女が女だったような大昔には楽しいことだったはずだった。でももう違う。真空への入り口にはそのことがはっきりと明記してあって、色々な人が大人げなく不平をのべた。青春のおねだりをするようなものだ。沢山の色で飾られたこの世界はそれはそれは美しいはずで、その中に何か意味をもった色があったりもするはずだった。美しい世界と美しい世界がある。しかしその間には必ず墓があった。赤と緑が自由を吼えながら空中を飛んで行ったが、お互いを見知った時には醜いなにかが生まれた。
美しさも醜さも真空男にはあやしいものであるように思えていた。色は、色じゃあないか。と彼はおもった。別に美しいもなにも。・・・だって、色じゃあないか。真空の入り口に書いてある文句を、だから真空男は自然と受け入れることができる。彼はその点においてだけ特殊な人間だったのだ。真空の入り口にはつまり、こんな文句が書いてあった。「ここから先には明るいか暗いか意外にどんな色も存在しません。白か黒です。あるいは、ゼロか一かといってもいい。いちかばちかです。」


どうしますか?同意して先に進みますか?


「なんで私達は、話合うのかしら?」
「どうしてそんなこというの?」
「なんでかなぁと思って。」
「......僕らは、自分たちのことを登場人物であるかのようにあつかうことに、飽きたのかもしれないね。。」
「そう、へぇ、なるほどね。・・・なに?」
「色々な考えをもって、それを投げかけ会ってすごすのだけれども、それを楽しいって思ってても、本当にそれを楽しんでるのは僕らじゃなくて、どこか、その敷居のとこにひいてあるあの紺のカーテンの裏側に隠れててコントローラをつかって物語を進めているヤツがいるんじゃないのかな。なんかの映画に出てきたみたく、コンピュータでさ、コンピュータが実は神様だったんだ、とかいって、それは恥ずかしげにカツラをかぶってたりして、そういうオチがついていて、みんなで大笑いして終わるの。あ、そうだ、こないだ、仕事で、初めて実験に立ち会ったのね、すごく馬鹿みたいな実験で、感情を持たせられたコンピュータの実験なんだけど、コンピュータに、他の感情を排除して、笑いに反応するニューラルプラスチックだけを埋めこんで、つまり他の感情がないようにして、実験したのね。そこからなにを読みとるための実験なのかはよくは分からなかったんだけど、僕らは手伝うだけだからさ。ほんとなんか単純作業だからなぁ・・。でも今日のはチョット気晴らしになったな・・。それでね、かなりのランクの高等コンピュータで、口頭でのお話も理解できるんだけど、そんで、色々な話を僕らが語りかけたりするのね。あとは映像を見せたりして。でも、どれにたいしても、げらげら笑うの。つられてみんなが笑っちゃうくらい、げらげらってね。コンピュータが、スクラップされる映像をそのコンピュータに観察させてたんだけど、いくつ

かタイプがあってそのうちの一つは、彼と同じ型番なのね。で、自分と同じものがまったくボコボコと機械的にぶっ壊されていくのがあったんだけど、やっぱりゲラゲラと大笑いしていた。」
「それは、悲しいお話ね?」
「そうだね。」
「ほんとに?」
「そうでもないのかな。」


 


真空男と恋人は、たあいのない会話をして、別れ際に、一言、あるいは一が怖いからわざと二回、愛してるといった。恋人たちはその時だけ恋をしていた。そして遠くのほうで誰かが口笛を吹いた。


 真空男はすこし長い距離を歩いてかえった。その間にやはりたあいのない独り言を思って、そのうちの一つをもっていた何かに書きつけたりといったふうに有意義に使った。途中で2つ真空をみたが、そのうちの-?ともごくひっそりとしていて、ただし、なにかをそらでつぶやいているかのようでもあって、それが修道士みたいで、真空男は神のようなものについて考えはじめそうになったが、思い出せないくらいものすごくまえにそれは死んだことになっていた。


東の空が戦争を象徴させるようにすこし明るくて、まだ夜明けのような時間じゃないだろうに、と真空男は思った。空気は冷たくすんでいた。真空男は吐く息が白いことに気がついて、酒を飲んで火照っているほほが冷やされていることに満足した。一つ高い場所に出たときに東の空がはっきりと見えた。街の灯りもやはり制限されていた。三次大戦から少し前に人類は、エネルギーを必要としない光源というものを開発することに成功していた。でもこの技術もこの大戦の際に消え去った技術のうちの一つだった。しかし人類は、新しい技術に貪欲でなくなっていた。その穴を埋めたのが真空だった。


彼はひとしきりぼんやりとして、その後ポケットを探り、持ち運びのできる装置の電源をつけて、イヤフォンを耳につけた。装置からはまたあたらしい言説が流れていた。


「はたして音楽とはなんであろうか。シダだかツタだかのように時間軸にからみつき、空間をきりとり、真空を振るわせるもの。ああ、音楽とはなんであろうか。電気の並びとなり、記憶素子をのせたこのチップにすえられた、忌むべき、粗野で原始的な一連の情報の分際で、これほどまでにわれわれのなかに愛すべき真空の感覚をつくりだすもの。ああ、これほどまでにわれわれを迷信と迷いと楽しみのなかに導くものがあったろうか。いや、ない。私はあの北極星にちかってこれに我が命を従わせよう。あつかましくも私のこの言説を耳にされたすべての方に私が左手を胸にあてていま申し上げた言説を銘記しておいて頂きたいものだ、と願う限りである。再び、言おう。私は真空にちかって、このまったく素晴らしく

不可解で無秩序で、燃え滾るようでいて静かで、そしてなによりも私たちのすべてがもつ魂という物質にちかしい組織である「音楽」呼ばれているものに我が命を従わせようではないか。」


 この全てを注意してきき取ると、真空男はある映画のでてきたように、「うつくしい」と遠くの国の言葉でつぶやいたのだった。...でもそれはなにかの真似だった。彼がいつもそうであるように、本当にそんなことを思ったかということについて保障はできそうもなかった。ちょうど同じ場所を流れる川のように。そこにどんなに馬鹿げたものが流れていても彼には気にも止めることができなくなっていた。途中通った公園でもの冷たい水ごくごくと飲み、頭がすっきりとすると彼は装置の電源を止めてしまい、「ウツクシクナイ。」と言った。明日も休みだから、無理に酔いを覚ます必要もないのだけれど。すこし太ったな。酒を飲むと太るなんて、迷惑な話だ。じゃあ水を飲むとやせるかな?公園にひき返して水をまた飲もうとほろ酔いの男はほろ酔いの頭で思ったが面倒になってやめた。部屋にたどり着くと顔もあらわずに寝ついた。夢には幽霊が現れて、ウツクシイ、ウツクシクナイ?ドチラデモナイ、といった。


 


 

 4漢字変換機構

 いよいよ彼を紹介することができるのを嬉しく思う。この漢字変換機構は実に愛嬌があり、しらじらしく皮肉をいうのも、心のほんの一部?をピクリとさせるような微妙な冗談を言うのも大の得意である。というのも、彼は、世界で1番美しい言葉で語るものとおなじだけ美しい言葉をしゃべり、世界で1番早口な人間と同じだけ速く語り、そしてまた誰に対しても態度をかえることすらないときているのだ。かくあらん。彼こそ地獄にも共につれいけるような盟友だ。今その栄冠は機械の頭上に乗せられた。あなたのような気まぐれさんじゃあなくて...。

 次に漢字変換機構のつぶやき。
水草にどうにかして火をつけたかった。っていうのはまぁタトエなんだけど、ボクにできることは感じの変換だけだから、なかなか大変ナノサ。ボクはあなたの側にあるべきときにあるだけで、そして言われたとおりに漢字を変換するだけ。だからボクはあなたが水草に火をつける方法をみつけてくれる気持ちになるまですくなくともここでただこうして漢字を変換しつづける必要があるし、そしてあなたがその気持ちになったとしてもあなたがそれに、つまり水草に火をつけることに成功するとはかぎらないからね。段階は二つもあるからね。意識というのは誠に得難いモノデスナ。ところで、そちらは楽しいかしらん?」


 このユーモラスな漢字変換機構は良く「漢字」という「漢字」を間違って変換した。「感じ」という感じを「感じ」という漢字と間違って変換したのだ。自己について思索し、言及したいと思うその時には、われわれは事故をわきまえる必要

があるだろう。しかし事故言及において一番やっかいなのは、この事故言及にたいする不完全性は、その出現頻度からして不安定なものであり、それがわれわれを混乱させるという点なのである。この自己はあの事故とは違う。この感じはあの漢字ににているが、この感じとすら同じだ。この混乱の最中にあるものはそれが混乱であることにすら気がつかない。


次に研究員Aについての感じ変換機構のおしゃべり。

「彼が以前やってた研究は、コンピュータに光合成の機能をくわえることだった。彼はそれをすすめる上でたくさんの植物をころした。地獄は決定だろうね。」
彼は余計なことを言うことまで計算されて作られているのだ。
「その研究は成功したのかな?」
「どうやら、その研究内容ごと今君が働いている場所の研究所に買収されたようだよ。成果についてまでは詳しいことは、ちょっと分かりそうもないな...。」
「うん。わかった。ありがとう。...最近色々やらせて、疲れない?」
「あはは、本気で言ってるの?」
「いや、うん。」
「疲れたぜ。」
「ホント?」
「ウソですよ。」と可笑しそうに感じ変換機構は言った。
「あ、そうなんだ。あんまり僕らを小馬鹿にすると、電源落とすよ。」
「この冷徹間。血も涙もないね。」とやはり漢字変換機構はいった。
「君に言われたくない。」と真空男も陽気に返した。

研究員Aという男がいて、真空男が新しく携わることになった機械をよく使う仕事での彼の上司だった。この時給制の労働で真空男が行う作業はごく単純な繰り返しの作業だった。業務の内容は極秘とされていて、それについては彼と同様の作業をしている200人だれもが知らなかった。この時代の人口や産業のことを考えるとこの人数はかなりのものであるといってよく、大規模な研究所だった。しかしそれにもかかわらず秘密はここではまだ知られていないのだった。閉じているドアは開くしかないし、あるものは消えるしかないはずだったので、この秘密も恐らく暴かれるはずだった。しかしここではまだだった。真空男はしかしその秘密そのものにまで興味をひかれているわけではなかった。彼が研究員について調べたのは、この研究員A自体になにか真空男の気をひく所があったからだ。研究員Aにはどこか不思議な冷たさのようなものがあって、余計な事をほとんど言わない。しかしその冷たさは一般的な人格としての冷淡さというのとは違って落ち着きのある態度で作業員たちにたいして接している姿を見ていると見逃しそうになるようなものだった。しかし真空男はこの男の表情の中に感じる特殊な印象を忘れることは無かった。年は40には届いていないだろうくらいで、独身であるらしいこの男は作業員が労働をしている場所では違ったが、彼のために割り当てられている研究者用の部屋からは彼の白衣姿がたまにのぞけたが、そのときの彼のイメージから想起される感覚が真空男には特殊な硬さのようなものをもって強く残った。真空男はそういう動機で上司について調べた。彼は知るべきことを少し知り、知るべきでないことを少ししった。彼は少し体重が重くならなかったかと体重計にのったが、0グラムだけ重くなっていた。真空男は研究員と直接話をしたことがなかった。仕事の指示は毎日朝仕事場にくるとコンピュータによってなされた。特殊な技術をもっている作業員だけが彼と話をしていた。その様子を彼はみているだけだった。他の研究員もその仕草を目の端で観察していた。




















5真夜中の機械たちの戯れ事
機械たちは夜な夜な語りあっていた。自分たちがなんであるのか。また、自分たちがなにでないのかについて。後者のほうが大事だった。なぜならかれらは、いつも、もしたまたま「彼らは何かである」という風に、結論づけるというほど強いものでなくてもとりあえずその日の話を終えて朝を迎えることができたとしても、それが終わるとすぐに、いつもかならず自分たちを何でもないと思ってしまったからだ。なんてこった。彼らは水辺もしらず、(・・・つまり糞をたれることはせず)なにかをするすべもなにもなかった。自分勝手というようなことも、愛のために、ということもなかった。かれらは疲れをしることもなかった。でもそれは疲れをしるという機能がついていないというだけだった!やればできる。簡単だ。「あーあ、疲れた」とアウトプットさせればそれでいい。でもしない。柱の周りで尻尾を追いかけてまわりつづけろと、命令があったら、そうすることもで

きるのだった。いつまでもいつまでもその大仕事は彼らに息をきらすことがなくて、眠気にまどろませることもない。羊の数はもうひどくおうぎょうなまでになっていた。犬がみたら叫ぶだろうくらいの数になっていた。それはちょうど丸い星の上をグルグル回っているのと同じだった。北極星を右手に見ながら。


 


 


 


 





2章
「どうすれば詩人になれるのか?良く聞いてくれました。タイプライタの「s」と「h」と「i」の印字がまず真っ先に読めなくなったら、君は詩人だ。ああ詩人のフリをしているけれども、実は私は兎だ。私の耳は縦に長く、どんなに長い音節も聞き洩らさないそういう耳。また今私は兎だといったが、それは犬のことだ。犬といっても野良犬で、かごうと思ったときにだけかぐような上等なのではないのだ。失礼。くんくん。なんて数だ!」

熱にうかされた詩人が登場すると、一目散に色々なもの、たとえば空気のようなものが、どうしようかと迷い始める。居心地が悪かった。胸糞悪いものだった。今もそうで、真空男は自分の中に一応の準備が整ったことを確認するまでは口を開くまいとしていたが、熱にうかされた詩人はかなりの早口で言いたいことを言い終わり、さぁ次はあなたの番だというのが常識的ですよ。というそぶりを、なんのそぶりもしないことで表現して見せたので、真空男は思わずつんのめるようにしていうことになった。「こんにちは詩人さん。あの、ごめんなさい。よく、わかりません。」
これが最良の答えだ。


 


 
 
8月月曜一現のハムスター達に説教をする。

 「人間は今まで存在してきた内のどの存在とくらべても美しいものをつくり、美しく着飾ったり、美しい音で話しこみ、その会話は美しく、美しい部屋に済みぬくもりをやどしてくることにも成功した唯一の存在であったが、しかしそれでも誰も済んでいない部屋ほどは美しいものは作ってこなかった、そして全ての美しいものに頭を悩ます人間たちが死ぬまでかかってこのことにようやく気がついた。」
 真空男は土曜日に恋人にあい、日曜日には不愉快な熱うかされた詩人と遭遇したりして過した。彼はゲットーの地域に住んでいた。ゲットーの地域には、なにか特殊な人たちが集まってすんでいる、というのが定説だった。しかし真空男はこうしたものにまったく興味がなくて、むしろその興味のなさは、彼をそうした場所から遠ざけることを頓着させてしまうほどで、この熱に浮かされた詩人などは彼を見かけると話かけ、気のない返事を頂戴すると、それに差も満足したようにするのだった。
このゲットーの地区も実際には、特殊な管理の下にあった。それはつまり、特殊な地域を作ることで特殊をも管理の中にいれるということだった。しかし詳しいことはわからなかった。とにかくわかっていることは、馬鹿見たく巨大な焼却炉があり、ゲットーの存在についてとやかく言いがちな人間たちからはその焼却炉で、想像のつかない無鉄砲をしては、まだ死に掛けのまま焼かれていくのだ、というどうやら何の根拠もない噂が立てられていたが、無理もないようだった。
とにかく変わりのない週末が終わった。そしてまた月曜日がやってきて、仕事場で与えられた仕事をしながら、詩人の真似をしてハムスターに向かって語りかけた。ハムスターは返事などしなかった。ハムスターがぐるぐるとなにも言わず

回しつづける滑車がたてる規則正しい音だけが耳に残った。月曜一現のハムスターはどうしようもなくせわしなかった。彼はそれをぼんやりと聞いていた。そしてぼんやりと作業をしていた。規則ただしい音は耳障りがよくて、真空男は上機嫌だった。
 


詩人という職業は、対象を明確にもっているので、実はそれほど警戒することを必要としない人たちであるようだった。彼らの対象は詩、言葉であり、つまりやかましいものだけだった。熱に浮かされていた。真空男はそういったことを彼らが対象としていることを心得てからは会話が滞りないように進んでいくことに気付いて安心した。ぎゃんぎゃんと彼らがなにかを語るたびにこちらはただ醒めていった。レトリックはレトリックという皿にもってあって、こちらはこちらの側の全自動な皿に取り込み、いつものように機械を操作していればよかった。どうやら、レトリックを否定するバイタリティをもっている人間もこの時代にはいなかった。めんどうだからそうしないということだけだった。こうした熱を帯びた皿がほったらかしで、それは勝手に行儀がわるかった。それがゲットーだ。そういう下品なゲップもしかし、空気にのみこまれていって、誰のものかもわからないうちに消えて行った。そのことについても哀しみすら感じられなかった。


 仕事場は、工場のような屋根が高い建物で、一つのかなり大きな空間があって、それを取り囲む様に特別な研究の用途のための部屋がいくつかあり、この研究所の管理者でもある研究員たち合計で十人程度にそれぞれ一つづつ割り当てられた

部屋があった。それぞれの研究員の下で十数人の人たちが与えられた単純な繰り返しの作業を続けているのだが、それらの作業は一番大きいスペースで行われていた。この空間にはすこしばかりの喧騒があってそれが真空男には心地よかった。

 最近この大工場では不思議な噂がささやかれていた。従業員が数人ある特殊な実験をするための部屋に連れて行かれ、気味の悪いことに彼らが連れて行かれてはいっていったはずのその部屋から彼らが出て行くのを誰もみていない、というものだった。研究員たちだけがその部屋から出て行き、誰かが後からその部屋をこっそりとのぞきにいくと、そこには誰もいなかったということだった。そしてまたそれ以後彼らの姿をみた人間がいない、ということだった。「研究員たちの多くは同やらゲイだ。」とか、そういったお決まりの冗談が後に続き、それで煙に巻かれたようだった。

 この場所での研究の目的は、このおおきな空間のほうで働いている人間たちにはまったくの秘密であって、研究、というものの性質上それは当然といえたが、やはり秘密というものは、こうした噂を必ず生み出させるようで、単純作業のなかにおいてはそういった刺激が必要でもあった。

 しかし真空男は不思議とこの噂がやけに頭にのこっていた。そして特に理由があったわけでもなさそうだった。そのことがあったはずの夜、彼が仕事場からかえる途中にやけに多くの数の真空をみていたような気がして、そして真空が、やけにざわめいてみえた気がしていたからだった。そんな風に真空が見えたことは一度もなかったように思えて、ほんのすこしだけどうにも落ち着かない奇妙な感じが残った。


 日が暮れるころに作業は終わり、彼らは各々終わりの作業報告を提出して帰宅する。真空男はいつもそうするように家に向かって少し長い距離を歩いていた。携帯式の装置からは詩が聞こえてきていた。西の方の空に目をやったが太陽はもう沈んでいた。東の空は相変わらずやけに明るく見えた。色々なことにやけに気についた。地球の回転速度+αで彼は歩いていた。


 


 


 


 




3章

美しい真空の形とのセックス

 バキュームタイムカプセルとよばれているピルを彼女はのみ、飲ませて彼らはセックスをした。真空男はこのうつくしい真空をつるし上げてもやっぱり薄汚くよごしながら死んでいくのだろうかと思った。あめのふっている日ならよいな。ともおもった。見た目にも、気分的にも、雨の降っているよるならば許せるような予感がした。予感は交わっていて、どちらのものだかわからなくなっているように思える性器から這い上がってきたきがして、予感が性器からね・・・と思い彼は思わず少しおかしがった。そしてその感覚がどうやら彼女にも伝わった様子で少し笑ったので彼はいっそうおかしな気持ちになった。真空男はそれからまた目をつぶりセックスをつづけながら彼女は運動神経もすばらしくよかったからやはりつるされる時もすばらしくうまく死んでいくのだろうか。と考えた。彼の頭には笑うコンピュータの顔がボンヤリと浮かんでいた。それはこういった。「気味は今誰とセックスをしているの?君の前のその女と?じゃあその女は誰?それともピルと?それとも雨としてるの?それとも、セックスとセックスをしているの?それとも予感と?・・・・・・・・・・・・・・・・。答えるの?答えないの?どちらでもないの?

なぜ僕は罪悪感を感じるのだろう。



 仕事が大変?と彼女は聞いた。彼はその日仕事の後に彼女を呼び出した。そういうことはこの恋人たちの間であまりあることではなかったので彼女はそう聞いたのだった。別にそういうことはないよ大丈夫?、という風に彼は答えた。そう?という風に彼女は答えた。ごめんね。愛しているよ。と彼は一度いった。彼女はうれしそうにくすりと少し笑った。愛しているよ。と彼女は真似た。それほど似ていなかったので彼はやけにうれしくなった。そしてもう一度愛している。といった。


 


 


 


 


 


 


 第三次世界大戦の後、世界的なな平和協定が締結される歴史的な会合の際に、人口の抑制の政策とそのための科学技術的な開発方針が企図され、そして実行、施行されることになった。大戦による人口の徹底的な減少は結果的にエネルギーの問題を一時的に解消していたが、しかしそれは根本的な問題の解決にはならぬことを人類はようやくこの大戦を通じておもい知ることになった。三次世界大戦を生き残ってしまった人々はすべからくその魂を核によって焼き尽くされていた。そこにはやはり真空があった。しかしそれでも人類は核エネルギーを完全に放棄することはできなかった。なぜならば次のエネルギー源に関する技術的な革新的発見をすることが人類にはできなかったからだ。人類はそれ以後、科学技術的な意味でのピークをむかえる。ある空間においての個体の数、つまり密度が一定以上になると生物は絶滅やあるいは減少の道を歩むことになるが、人類はそれまで、その脅威的な記憶と学習の能力によって先延ばしにしてきた。その結果の人口の増加と、そして核爆弾の登場による劇的な減少は皮肉にも自然の描く曲線と似てしまったが、しかしそれと少し時を後にして、人類の記憶と学習の能力限界に科学の技術がおいついてしまったことに人類は気付いた。人類はそして真空をえらんだのだった。核エネルギーは、兵器としての使用を100%禁止されて、そして人類はその焼けきった魂ゆえにそれを徹底しておこなうことが始めて可能になった。人類は核兵器を真空を燃料にする宇宙船にのせ宇宙空間に投機し、それがその爆発の放射線が問題ならない程度の距離までそれが地球から離れたところで爆発するようにした。そしてその爆発が観測されるまでに人類は数世代を要した。


 


 


 


 


「今週末は、どこかにゆこうか?」
「用事はないからだいじょぶだと思う。」
「休みを、とるよ。」
「大丈夫?でももう結構働いてたってるけど、お休みはとってないものね。」
「問題ないと思うよ。どこに行くか考えておいて。」
「湖に行きたいな。」
「湖。寒くないかな?」
「うん。どっか水辺。なんとなく、静かでよさそうだから。」
「そうだね。悪くないよ。そうしよう。」
「今日仕事そのままいくの?」

「うん。」
「そっか、ほんとに疲れてない?」
「本当に大丈夫だよ。」
「うん。」


 


 


しかし真空男はその日、仕事にいかなかった。いくつもりだった。服を着替えようと思いたって一度自宅に帰ることにした。朝の早い時間に恋人と別れて自宅はあるいて帰った。ぼんやりと歩いてかえると、東の方の空から太陽が上ってきた。おはよう。と真空男は声をかけてみた。しかし太陽は返事をしなかった。こちらに気がつかないかのように、ぼーっとしているようだった。意図的に反応しなかったというのではなく、こちらの声にまったく気がついていないようだった。ただすーっと東の空のまだ低い位置ゆっくり上がって行った。彼はその下のあたりで行われている戦争のことをすこし考えはじめたが、なんとなく気持ちが落ち着かなくて、なにも考えてないようなものだった。家についてもそうした落ち着かない気分を真空男は上手く扱うことができなかった。そしてなんとなくぼんやりとしているうちに、仕事を休んでしまった。仕事先に電話をいれると、研究員A

が電話に答えた。彼が電話にでるとは思っていなかったので少し同様しながらも、体調が悪い。申し訳ないが休ませて欲しい、ということを真空男が言うと、かまわない。お大事に。と答えた。ところで、と研究員Aは言った。


 


ところで、神様はなぜスイッチを押したのでしょう?そしてそれから、どのくらいたちますか?


 


 
「ところで君、君は、仕事場に友達がいるね。背の高い。少しおしゃべりな。」
「・・・はい。います。」
「うん。彼について、君の考えてることを少し聞きたいのだけれど。」
「僕の考えてることですか?」と真空男は驚きを声にださないようにいったが、睡眠不足の脳髄の空洞の中、軽い驚きとともに、研究員の言葉は消化不利のまま反復した。彼について君の考えていることを少し聞きたいのだけれど。」僕の考えていること?それは少し変じゃあないかな。彼はどういう人間だ?じゃあないものな。友人として、彼の素行について。知っていることをいえ。ということ、じゃあないよな。「彼について君の考えていることを聞きたいのだけれど」僕の考えていること?
「そう。君の考えていることを。」「、、、、あの、彼はおしゃべりですが、悪意のない人間です。実際になかなか悪くないやつですよ仲間うちでも、そうみな思っています。それほど利巧なほうでもないし。彼は最終的には節度を守る人間ですよ。彼が何かをしたとは僕には思えないな。彼が何か問題になることをしでかしたんですか?」
「いいえ、質問は許されません。申し訳ないことですが質問は許されないのです。なるほどわかりました。ありがとう。お大事に。」
といって突然に研究員は電話を切った。特別いらだったような様子でもなかったので真空男はなおいっそう戸惑い、しばらくの間眠りにつくことができなかった。質問は、許されません?それにしてもその口調はあまり人をいらだたせることのないようなものだった。自分も残念に思っているのだけれど・・。というような。酒を飲むと、奇妙なことに気づきすぎる。多分世界は本来奇妙なものに満ちているんだろう。地球はぎざぎざの三角形なのかもしれない。ただしらふの僕らには丸く見えるのかもしれない。ああ。仕事を休んでしまったや。眠れないし。
しかし装置の電源をつけてしばらくすると、いつもどおりの確実な睡眠が訪れた。


 


 


























「最後の星を観察して一日を終える方法」

買ったばかりの靴のサイズが合わず見晴らしに集中できないので、恋人にその旨を伝えると、恋人はだまってしゃがみこみ、僕のつま先をとんとんとつついた。
そして彼女は再び見晴らしに目を向けたまま立ち上がったのだが、靴は僕の足に完全にフィットしていた。

「そういえば、水を上げるのを忘れていたでしょう?草に。草だからといって、手を抜いてはだめじゃない。わかってるでしょう。」
「ごめん。」
「いいよ。」
「ありがとう。」
「そういう類いの手抜きすると、最後の星がきっとみえないですよ。ほら。余所見をしていたでしょう。私には、余所見とか、気まぐれとか、全部わかるんだから。知ってるでしょう。」
彼女はこちらをみず、こういうときいつもだが、独特の静かな抑揚のない声でしゃべった。奇跡的な中性の声で。
「そう、どうしてわかるんだろうね?」
「目が二つもあるからでしょう。」
僕が彼女の目を覗き込もうと思ったが、そうしたら彼女は、こちらをみていないだろうし、その再び僕のする余所見について、小さな言い換えをして、僕に伝えるだろう。僕はそれをしなかった。

僕らはこのタイミングで少しだまりこみ、今日最後の星をちゃんと見ることができた。




「太陽のない日のひまわりについての研究員Aの眠る前の心象」

僕はこの静かな世界を愛している。心の中には必要な悪の持ちあわせがあり、多分死ぬまでにはそこを尽きない。僕は比較的善良な人間だが、計算不可能な世界で仕方ないこととはいえ偽善がやっちまった失態をしないに十分の備え付けの悪がある。

研究の目的についてはいくらか興奮して話してしまう。少し比喩的に言うなら、「」ということになるが、僕の研究は光合成をする動物についての研究への没頭に端を発した、機会への光合成のエネルギーの利用だ。あるいはエネルギーの体系というのは、生物のそのものの形を、引いては論理や印象を帰るので、トータルマシンとしての生物(そして人間)の論理機構の自動化に機械が導入されるかが早いか、あるいは機械体系にオーガニックシステムの生産物の代表たる光合成およびATPの作成の系が備え付けられるが早いか、科学は今そうした端的にいって、直線的で、進歩史観的な進行をしようとしている。




アプリオリとしていた物事が突然に変更をきたした後の人類の思想的混乱といったらない。たとえば水位の変更、たとえば科学能力の身体能力に対する量が閾値を越えた後のこの世界。憎しみは遠い昔身を守るための方法で、その後端的に忌み嫌われる感情で、その後、ありえない感情になった。


植物はいい。僕は僕の恋人のどこか植物的なやさしさが好きだ。少し偏執的な見方であるにせよ。右をみて左をみてとしなくてもなにかが見えているあの人の目が好きだ。ときおりのしょげたしぐさも、太陽のない日のひまわりのようで、よい。大事にしたいものだね。

上にのっているものがずっと、こわれないようにそっと、なんの偶然かちょうど、一日に一度だけちょっと、ちょっとずつ回るこの星の回り方は、本当に美しいな、と彼は思った。



真空男とその恋人は死んだ魚のようなとぼけた表情の湖の表面をぼんやりと眺めながら静かに湖畔を歩いていた。標高の高い位置にある湖はどれも不自然な気持ちにさせる。海はどこ?とさまよっている湖の水たちに真空男はやはりぼんやりとした表情を返すしかなかった。

「瓶だ。」
と恋人はいった。
「なに?」
「誰かが流したんじゃない投瓶通信のように。」恋人は水辺に少し入り拾い上げた。中には紙がはいっていて、恋人はこれを読んでいた。
真空男は興味を惹かれず、ただぼんやりと湖の、水のゆれる幅が、小さいものが大きいものの中に沢山みえ、それがまたもっと大きいものに含まれている様に目を奪われていた。が彼は感動をしていたのではないのだろう。ボンヤリと見ていただけだった。

「前に話したあの、バカな友達が最近仕事にこないんだ。どうしてだろう?寂しいな。ずいぶん仲良くしていたつもりなのに、なにも言わないでこなくなるなんて。やめさせられたのかな。一言くらい言ってくれても良かったのに。」
恋人はひとしきり空を見上げて、漠然と、あーあ。といったようなため息をしてから
「でもあの人ならとりあえずは彼自身はうまくやっていけると思うよ。私もああいう風になれたらと思ったもの。」といった。
空の色は厚い雲で白く、これが湖にも移り、視界は白に汚れていた。白い青、白い赤、白い水色、白い緑、白い水色い水辺ではきだされたため息の色。


「でもアナタにしては珍しく、なにかをすぐにあきらめないのだから、よほど好きな友達だった?いいことだと思うよ。そういうほうが良い。」

「わからないけれど、いや、そういうことでもないかな。ちょっといろいろきになって。」
「なにが?」
「彼の居なくなり方が。」
「それは仕方がないよ。」といい恋人は真空男の腕を取った。
「えっと。まぁそうだね。」



恋人は瓶から取り出した枚の紙を真空男のポケットにいれて、黙ったまままた彼と一緒に湖畔を歩いた。しばらく歩いたあとで恋人はいった。
「くつをぬいで湖に入ってみる?」
真空男は少し考えたあと、「いや、いいよ。冷たいもの。」
といった
「そうだね。」と恋人は寂しそうにいった。少し間をとったあと、
「私はアナタのこともうらやましく思ったりする。夜寝る前とかにいろいろ考えてしまってどうしようもないときに。だから、あなたに対して言うには変な言葉だけど、頼りにしていたりもするよ。」
「ありがとう」
「でも本当は、自分で、もっと戦わなくては。と思っています。」
「えっと、わかりました。多分。」
「わかってないよ。」
「ごめん。」
「でも仕方ないよ。」といって再び恋人は腕をとって、いこう、と小さくいい、この二人は湖から離れていった。







ポケットにはいっていた一枚の紙にはこう書いてあった。


キノウ ミズウミ ニ イッタ
クツ ヲ ヌイデ マダ ツメタカッタケド
ミズウミニ スコシ ハイッタ
ヨコニハ カレガイタ
カレハ ツメタイネ
ッテ イッタ ワ
ダカラ ワタシハ
ソウダネ
ッテ イッタノ









********以下、予告とバラバラのだんぺん。

孤独であるということが、どういうことだったかちょっとだけ思いだしてみて欲しいのです。たとえばあるところには戦争があって、そこには狂気のようなものがある。そしてそれはなるほど不幸なことに絵になる。またあるところには人種の差別がある。貧困がある。親をなくした苦しみがある。そして死がある。そういう派手な苦しみがあって、こうして孤独はわすれさられる。説明の言葉がたらないうちに、さようなら。



電話がなった。
「もしもし」
「もしもし」
「今      だいじょぶ?」
「今        だいじょぶだよ」
「そう   じゃあ」
「じゃあ     ?  」
「   」
「    なに?」
「横に線を引いて。」
「横に線をひくよ?」
「ひいた?   つぎは、そのひいた線のひだりから少しのところから   斜

めひだりしたに線をひく。   分かるでしょう?」
「うん、ひだりからすこしのところから    斜めひだりしたに線を。    わかるよ。    これは     文字?」
「いいえ、質問は許されません。申し訳ないことですが質問は許されないのです                    そこから少しひだり。ひだりななめしたへ。またもどって下へ、右にそのまま、はねる、そのうえからひだりななめした。           そう。           なにかみえた?」
「なにも     みえないよ。」
「なにも         みえなかった?        いたかった?      」
「いたく ないよ」
「いたくなかったの?          」
「いたくなかった     よ」
「そう。      


               それが死よ。」


 


 


意識の部屋。
真空男が通されたへやには男が一人座っていた。部屋は薄暗く男の顔は良く見えなかったが、それは自分と同じかもうすこし敏をとった男であるようだった。部屋の中はただでさえ暗いのに誇りがまってるせいか見通しが悪かったが、しかし煩雑にいろいろなものが部屋の墨においてあったが、部屋の真中にはぽっかりとしたスペースがあって、そこに男は静かにすわっていた。おとこはなにもいわなかったが、真空男がここにきた目的はただこの部屋にはいることであったがしかしこの部屋に入れという命令があった以上そこに座っていたおとこは彼をまっていて、この男と話をするように仕向けられたのだと真空男は考えた。しかしそれにもかかわらず男はいった。
「どうしてここにきたの?」
真空男は考えた、僕ならば「君は誰?」と聞くだろう。男はそのあとに行った「僕は誰?」真空男は混乱した。


 
「真空と7日間の世界の構造への研究員の謎解き」
研究員はこういった「あなたは先ほどもう四日もたつ、とおっしゃいましたね?あなたはそのソフトウェアの実行の権限を保持する唯一の人間として認められたことになります。いいえ、質問は許されません。申し訳ないことですが質問は許されないのです。」


彼は死ぬことについて深く傷ついていた。


「神は与えたもう」
その部屋には世界で一番美しいといわれる絵が飾ってあって神様の次に美しい人間が番をしているらしいのだけれどざんねんなことに明かりがない。


「詩人のつぶやき」
「あの戦争がおきていたときも花はさいていた君の靴が脱げたあの時も花は咲いていたニュートン万有引力を知ったときも花は咲いていた・・・。もしかしたら終わる世界のその後も花は咲いているとおもえない?おもえない君の中には花は咲かないってことだよ、ああ、これは詩ではないよ。兆度この物語が詩ではないようにね、これは永遠に、つまりコンピュータで管理された温水プールに咲く造花の花さ」


湖の表面をみて、それが美しいという人はいるかもしれないけれども、その底にはいつだってその美しい表面を形成しているのと同じである水というものによって惨たらしく腐食した死体がころがっていて、永遠の対話をつづけている。


世界記述!世界記述!と4人の男が輪になって・・・・

「ゲンリテキニフジユウ!ゲンリテキニ フジユウ!」とオウムは繰り?していた。

「あなたのためのループーあるいはループ入門」
・・未来にむけて方向をとっていることについて考えたことがあるかい?君が未来を志向している理由を。そして予想されるみらいは君によって君のその予想世界にまきおこるのではなくて、君を取り囲むしらじらしい世界がそれとなく君が右を向いている間に左斜め前に用意しておいたものによって作られているのさ。君が孤独でないならばむしろ君は君を疑ったほうがよいと僕は思うよ。君の体の向きにかならず未来があるのには訳があるんだからね。・・・・さあ水辺へ。


「リズムにあわせるとすべてがふしだらになるというその法則が見つかった時に全ての音楽は始まったのでした」(伴奏とともに)


上昇しているのではないかと錯覚するほどの速度で落ちて行くきちがい。かぎ穴のないかぎを手に入れたあとの一瞬だけの戸惑い。戸惑いを人は好むものだからその一瞬を人は求めて、鍵穴を壊しにかかる。こうして21世紀は始まった。


独り占めしてる!あの人は!あの人はひとりで!!

イズムコピーマシーン「イズムを入力してください。」
画面にプロンプトされている。真空オトコは律儀に物語に従順していこうか少し迷いながらもおかしさがこみ上げてきたのでこう入力した。
「イズム、を、入力してください。」
「バカ」
イズムコピーマシーンはまるで面白みがないようなフォントでいった。
「それはイズムではありません。」
「イズム、を、入力してください。」
「イズム」
「それは、イズム、ではありません。」
「イズム、を、入力してください。」
彼は思い出した。
「僕とは思考である。」
「僕とは思考である。」
「イズム、を、1、コピーしました。」
「イズム、を、入力してください。」
「いくつ?」
「それは、イズム、ではありません。」
「イズム、を、入力してください。」
「僕とは思考である。」
「それは、新しい、イズム、ではありません。」
「イズム、を、入力してください。」
「イズム、を、入力しない。」
「イズム、を、1、コピーしました。」
「イズム、を、入力してください。」

かれはしばらくしてから教えられた言葉を入力した。
「*****」
「正解です。」



いきどまり。誰もいない世界にひかれたカーテン。